キッチンでコーディング:Devin Davies氏による美味しいレシピアプリ「Crouton」の調理方法

白いキャビネットがある、ティール色の壁のキッチンのイラスト。鍋とフライパンが置いてあるコンロの上に浮かぶ、2つのApple Vision Proスクリーン。

まず何よりも、料理にかけてはDevin Davies氏は一流です。「私はプロでも何でもありません」と彼は言いますが、その口ぶりは、優秀な人が謙遜するときによく見られる、あの感じです。

Davies氏はキッチンの使い方を熟知しているだけでなく、経験豊富なデベロッパでもあります。彼がSwiftで作成した調理支援アプリ「Crouton」は、2024年のApple Design Awards(インタラクション部門)を受賞しました。

Croutonは、レシピの管理に役立つとともに、非常に効率的なキッチンアシスタントとしても機能します。このアプリはまず、ブログ、家庭向けの料理本、手書きされた1990年代のスクラップなど、考えられるあらゆる場所からレシピを収集します。それらのレシピを、強力な機械学習モデルを使って取り込み、整理します。「オンラインでレシピを見つけたら、共有ボタンを押すだけでCroutonに取り込まれます」と、ニュージーランドを拠点とするDavies氏は説明します。「古い本でレシピを見つけた場合は、写真を撮って保存するだけです」

料理を始める際には、現在のステップ、材料、分量(単位の変換にも対応)のみが表示されるため、重要な情報だけをすばやく確認できます。複数のアプリを切り替えなくても、1カップが何ミリリットルか確認できます。別のアプリでタイマーを設定することも不要。すべてがCroutonで処理されます。「大事なのは、手順をチェックする手間を減らして、できるだけ早く調理に戻れるようにすることです」とDavies氏は語ります。


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バターチキンのレシピを表示しているCroutonのスクリーンショット。材料リストの上に料理の写真がある。

Crouton

  • 受賞カテゴリ:インタラクション
  • 対応デバイス:iPhone、iPad、Mac、Apple Vision Pro、Apple Watch
  • チームの規模:1人

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Croutonは、デベロッパが自分のニーズを満たすために作ったアプリの典型例です。プロのシェフ顔負けの腕前を持つDavies氏は、以前はメモアプリで料理の段取りを決めていました。しかし、彼が笑いながら語るには、「それでは手に負えなくなった」そうです。

当時のDavies氏はiOSデベロッパとしてまだ駆け出しで、少しでも時間節約に役立つアプリを作れないかと考えていました(彼の気質は親譲りで、父親もデベロッパでした)。Davies氏は言います。「プログラミングは決して得意ではありませんでしたが、問題解決に役立つアプリを作り始めてみると、プログラミングは目的を達成するための手段であると考えるようになりました。それが私には合っていました」

Davies氏はフルタイムの仕事で生計を立てていましたが、その傍らでSwiftを独学で学び始めました。Swiftは、それまでに挑戦したほかの言語よりもはるかに速く習得できたと彼は言います。このことは特に、当時はまだプログラミングのセンスを身につけ始めたばかりの彼にとっては有益でした。「それでも、Swiftを理解するにはある程度時間がかかりました。でもかなり早い段階で、Swiftは私がプログラミング言語にこうあってほしいと思うような言語であることに気付きました。Croutonにテキストを提示して取り込むと、すぐに利用できるようになります。考える手間が生じるような数々の手順を、驚くほど省けます」

かなり早い段階で、Swiftは私がプログラミング言語にこうあってほしいと思うような言語であることに気付きました。

Devin Davies氏、Crouton

Swiftでのコーディングには多くの強みがありました。Davies氏はCroutonのナビゲーションを親しみやすく操作しやすいものにするために、プラットフォームの実績あるテクノロジーを採用しました。リストビューとコレクションビューには、Camera APIを利用しました。テキスト認識にVisionKitを使う一方、読み込んだ材料をカテゴリ別に整理する機能には別のモデルを使用しています。

「Core MLモデルを使うことで、粗くきざんだタマネギと丸ごとのタマネギを区別した上で分量を追加できます」とDavies氏は説明します。「材料を検出するモデルを、モデルの仕組みがまったくわからない私のような人物でも構築できるというのは、素晴らしいことです」

CroutonのApple Vision Pro上のスクリーンショット。チョコレートチップクッキーのレシピを表示したウインドウが灰色のマーブルのキッチンカウンター上に浮かんでいる。

Croutonの作成はスムーズに進み、最初のバージョンは約6か月で完成しました。しかし、幅広いユーザーを獲得するまでにはしばらく時間がかかりました。「だいたい1年くらいは、主なアクティブユーザーは私と母だけでした」とDavies氏は笑います。「でも、自分で使いたいようなアプリを作ることは本当に重要ですよ。アマチュアのデベロッパの場合は特に。そうすることで、継続するモチベーションが生まれます」

Davies氏が数年間にわたってアップデートをリリースするにつれ、Croutonは徐々に注目を集めるようになります。そしてついにはWWDC24で、Apple Design Awardsのインタラクション部門での受賞に結実しました。Davies氏は、Croutonの受賞がこの部門であったのは納得できることだと語ります。なぜなら、インタラクションに対する自身のアプローチこそが、このアプリの特別な「隠し味」だと考えているからです。「アプリの各要素をどのように組み合わせ、A地点からB地点へ、さらにC地点へと到達させるかを考えるのが、私の得意分野です。何を取り入れるかではなく、何を除外するかの判断に多くの時間を費やしました」

ブリトー、バターチキン、チョコチップクッキーなどのレシピがグリッド状に並べて表示されている、Croutonのスクリーンショット。各モジュールには料理の写真が含まれている。

Davies氏は、Apple Intelligence、Apple Watchのライブアクティビティ、翻訳APIを導入してCroutonをより魅力的にする方法を、今後数か月かけて探究したいと考えています(彼がメインで手掛けているアプリはCroutonですが、「Plate Smash」というApple Vision Proアプリも制作しました。料理でたまったストレスの解消に効果的なアプリのようです)。

しかし彼が重視するのは、新しい機能やアップグレードはすべて、現行のCroutonにスムーズに組み込めるものにすべきということです。Davies氏はこう説明します。「最初に核として据えた意図を忠実に守るというのが、私の信念です。インターフェイスを、時とともに当初とまったく異なるものにしていく必要はないと思います」

アプリの各要素をどのように組み合わせ、A地点からB地点へ、さらにC地点へと到達させるかを考えるのが、私の得意分野です。

Devin Davies氏、Crouton

キッチンアシスタントであるCroutonは、非常にパーソナルなアプリです。キッチンで食事を準備するとき、大切な人のために料理するとき、レシピの幅を広げるときに役立ちます。そして毎日の暮らしに、直接インパクトを与えるものです。(レシピが思い通りに完成しない場合も含めて、)アプリのデベロッパとしては極めて大きな影響を持っていると言えます。

「ときどき、バグや私の側での理解不足を発見した人から連絡をもらうことがありますが、コメントは暖かいものばかりです」とDavies氏は笑います。「こんなコメントもありました。『娘の誕生日にケーキを焼きましたが、クリームチーズを入れすぎて台無しになってしまいました。でもほんとにいいアプリです』って」

Meet the 2024 Apple Design Award winners

「デザインの舞台裏」は、Apple Design Awardsの各受賞者がどのようにデザインを実践しているか、また制作の背景にある哲学を探っていくシリーズです。賞を獲得したアプリやゲームのデベロッパやデザイナーが、どのようにしてその素晴らしい作品に命を吹き込んだのか、ストーリーごとにその舞台裏を覗いていきます。