福を呼ぶクマ:Bears Gratitudeの型にとらわれないキュートなデザインの舞台裏

ベージュを背景にした、Bears Gratitudeの画像。クリームをコーティングしたケーキの前で、パーティーハットをかぶってポーズをとる2頭のクマのイラストが表示されています。

ここでは、愛らしいクマがクリエイターたちをApple Design Awards受賞に導いたストーリーをご紹介します。

「Bears Gratitude」は、オーストラリアのIsuru WanasingheさんとNayomi Hettiarachchiさん夫妻によって開発された、心温まる親しみやすいアプリです。

日記アプリに求められるのはキュートさだけではありません。Swiftで開発され、シンプルな手描きのマスコットが登場するこのアプリでは、「今日はまだ終わっていません」、「文字通り新しい自分です」、「誰かを褒めましょう」といったメッセージを通して、達成したことを祝い、その日の出来事を振り返り、感謝の気持ちを育む習慣を身に着けることができます。「感謝の対象は、誕生日や記念日のような特別な日だけではありません」とWanasingheさんは説明します。「朝、1杯の熱いコーヒーを飲むだけでも、感謝の気持ちが湧いてきます」


ADAファクトシート

Bears Gratitudeのスクリーンショット。「My Good Day(最高の1日)」、「A Meal With Boo(大切な人と食事)」、「Finally On My Chores(やっと用事が片付いた)」など、日記の記入に役立つプロンプトカードが表示されています。

Bears Gratitude

  • 受賞カテゴリ:喜びと楽しさ
  • 対応デバイス:iOS、iPadOS、macOS
  • チームの規模:2人

Download Bears Gratitude from the App Store

長年プログラマーとして働いているWanasingheさんは、オーストラリアのシドニーで放課後学習支援センターを10年近く運営しています。しかし、「Bears Gratitude」とその前身である「Bears Countdown」のアイデアを思いついたのは、スリランカ生まれのイラストレーターHettiarachchiさんでした。新型コロナウイルスによるロックダウンの間、Hettiarachchiさんは趣味のイラストに専念していました。

Wanasingheさんは、「私たちのあらゆる活動の中心にアートがあります」と率直に語ります。

Bears Gratitudeを開発したオーストラリアのIsuru WanasingheさんとNayomi Hettiarachchi夫妻が、MacBookとiPadの前に置かれたテーブルに座っている写真。

事実、このアプリが存在する理由はアートにほかなりません。パンデミックが数か月におよび、イラストの枚数が増えるにつれ、HettiarachchiさんとWanasingheさん夫妻は彼女が描くキャラクターに愛着を感じるようになり、これらの作品を世界に向けて発信する方法を考え始めました。通常のソーシャルメディアに投稿するという方法もありましたが、Wanasingheさんの経歴から、アプリというアイデアが浮上しました。

「通常は、アイデアを出し、デザインを考えてから、実際の開発に取りかかります」とWanasingheさんは説明します。「私たちの場合は逆でした。アートがすべての原動力になっています」

私たちのあらゆる活動の中心にアートがあります。

Isuru Wanasingheさん(「Bears Gratitude」の共同設立者)

自由に使える何百枚ものイラストを手にした夫妻は、これらを使ってどのようなアプリを開発するかを考え始めました。最初にリリースしたのは「Bears Countdown」でした。これは、描きためたイラストを利用し、誕生日や休暇など、大切な日の到来までを楽しくカウントダウンしていくアプリです。「Bears Countdown」はマスマーケットを意図したアプリではないため、夫妻は、リリース時のパフォーマンスデータをApp Store Connectで確認することもしませんでした。「Nayomiが描いたイラストを100人のユーザーに楽しんでもらえたら、どんなにワクワクするだろうと思いました」とWanasingheさんは話します。「私たちが考えていたのはそれだけです」

ところが、何人かのインフルエンサーが「Bears Countdown」を気に入り、それがきっかけで人気が出たことから、夫妻は次のステップを考え始めました。「この時点では、これからの出来事を楽しみに待つという体験を提供してきました」とWanasingheさん。「では、『今日一日を振り返ってみるというのはどうだろう?』と考えたのです」

グレーと白の1匹の猫がテーブルの上でBears Gratitudeのイラストを見ている写真。テーブルには、猫の近くにiPadとキャンドルが置かれています。

「Bears Countdown」で使用されている可愛いキャラクターは「Bears Gratitude」にも登場しますが、それ以外の点では、このアプリはまったくの別物です。さらに、Wanasingheさんによると、「Bears Gratitude」は意図的に通常と異なる方法でデザインされています。「私たちのデザイン方法は驚くほど直線的でした」とWanasingheさんは打ち明けます。「わざと何も計画せず、ユーザーがこのアプリを体験するのと同じ順序でデザインしました」

ほかにも、サインイン画面を設けないなど、通常とは異なるアプローチを採用しました。Wanasingheさんは、「このアプリを開いてすぐ、日記の記入を開始できるようにしたかったのです」と話します。ホーム画面には、日記の記入を促すプロンプトがカード形式で表示され、ユーザーは左右をタップしてカードをめくることができます。「確かに標準的なUXではありませんが、ユーザーがまず最初にするのはカードをめくることであり、これはこれまでに何度も確認しています」とWanasingheさんは説明します。

私たちのデザイン方法は驚くほど直線的でした。わざと何も計画せず、ユーザーがこのアプリを体験するのと同じ順序でデザインしました。

Isuru Wanasingheさん(「Bears Gratitude」の共同設立者)

もう1つの工夫として、このアプリのプロンプトはユーザーの視点で書かれています。Wanasingheさんによると、これは「Bears Gratitudeのパーソナルな性質を強調するため」だといいます。「このアプリを使っているのが自分たちだけであるかのように工夫して、共感性を高めました」とWanasingheさんは話します。

また、このアプリに登場するクマは、数あるアプリの中で特徴的なフックとなるだけでなく、クリエーターたちのデザインアンカーとしての役割も果たしています。「私たちが目指しているのは、人目を引くアプリではありません。『どうすれば自分たちらしいアプリになるか?』をいつも考えています。私たちは常に様々なアプリを使っており、それらがどのように動作するかを知っています。しかしここで、それらすべてから距離を置き、アプリを真っ白なキャンバスだと考えて、『このアプリでどのような体験を提供したいのか』を自問しました」

Bears Gratitudeの初期のデザインスケッチ。3枚のカードにBears Gratitudeのマスコットが描かれ、プレースホルダーコピーが表示されています。

「Bears Gratitude」はマインドフルネスアプリではありません。Wanasingheさんは、自身もHettiarachchiさんもセラピストではなく、メンタルヘルスの専門家でもないことを明言しています。「でも私たちは人生における試練や逆境について理解しています」とWanasingheさんは語ります。

しかし、そうした試練や逆境がより大きな世界につながっているのです。Wanasingheさんは、「毎日、このアプリを開くだけで安心するという声がユーザーから届いている」と言います。「こうした方法でアートを共有できることにとても感謝しています。有意義な形で人々の生活とつながっていることを実感できるからです」

Meet the 2024 Apple Design Award winners

「デザインの舞台裏」は、Apple Design Awardsの各受賞者がどのようにデザインを実践しているか、また制作の背景にある哲学を探っていくシリーズです。賞を獲得したアプリやゲームのデベロッパやデザイナーが、どのようにしてその素晴らしい作品に命を吹き込んだのか、ストーリーごとにその舞台裏を覗いていきます。