デザインの舞台裏:魅力的な世界観を生むLost in Playの魔法の制作プロセス

Lost in Playは、ファンタジー好きによるファンタジー好きのためのゲームです。

2024年Apple Design Awards(ADA)のイノベーション部門を受賞したポイント&クリックのアドベンチャーゲームで、TotoとGalという2人の幼い兄妹と共に、禁じられた森、薄暗い洞窟、人懐っこいカエル、いたずら好きなノームなどが登場する美しいアニメーションの世界を旅します。プレイヤーが楽しいミニゲームやパズルをクリアすることでストーリーが進み、まるで土曜朝のアニメ番組のように展開していきます。冒険の旅に出た兄妹は石から剣を引き抜き、ゴブリンの村を訪れ、巨大な鳥に乗って海上を飛び、現実世界では兄妹げんかを繰り返します。時にはピザを数枚注文したりもします。


ADAのファクトシート

Lost in Playのアニメーションスクリーンショット。池のほとりで、巨大な白鳥の背中に座っている緑色の小さなノームに幼い兄妹が話しかけている。

Lost in Play

  • 受賞カテゴリ: イノベーション
  • チーム: Happy Juice Games(イスラエル)
  • 利用できるデバイス: iPhone、iPad
  • チームの規模: 7人
  • 受賞歴: iPad Game of the Year(2023年)

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Lost in Playを開発したのは、Happy Juice Gamesというイスラエルを拠点とする小さなチームです。3人の共同設立者は、自分自身の子ども時代や家族からゲームのインスピレーションを得ました。「子どもって、ファンタジーの世界に入り込みますよね」とHappy JuiceのYuval Markovich氏は言います。「私たちはその感覚を再現したかったのです。そして、子どもが迷子になるというアイデアを思いつきました。空想と現実世界の狭間でね」

チームにとって、開発の準備は十分に整っていました。Happy Juiceの共同設立者であるMarkovich氏、Oren Rubin氏、Alon Simon氏は、全員テレビと映画のアニメーションに携わっていたバックグラウンドを持ち、最初のスケッチを描く前から、楽しくて面白い冒険にしたいと考えていました。「大人になると、そのようにシンプルなことを楽しむ方法を忘れてしまいますよね」とSimon氏は言います。「そこで、クレイジーな生き物やカラフルな場所に満ちた、想像力を刺激するゲームを作り始めたのです」

スプリットスクリーンビュー。左はLost in Playの海中シーンのスクリーンショット。主人公の1人であるTotoが、老人と共にクジラの腹の中で座っている。その下で妹のDotが泳いでいる。右は、そのシーンを鉛筆で描いたスケッチ。

Markovich氏は、ゲーム関連の経歴があるだけでなく、1980年代にテキストベースのアドベンチャーゲームをプレイしながら英語を独学で覚えたという経験があります。「『北へ』とか『見回す』とか打ちながらプレイするわけですが、何かしなければならないときはいつも辞書を引いて、どう言えばよいか確認していました」とMarkovich氏は笑います。「あるとき、『あ、この言葉知ってるぞ』となったのです」

そこでゴブリンの村は面白そうだけど、そこまでどうやってたどり着かせるのかが課題になりました。

Yuval Markovich氏(Happy Juice Games共同設立者)

しかし、難易度の高いものに挑戦した人ならおわかりかと思いますが、この手のゲームにイラっとすることもあります。Lost in Playには、初日からサクサク進められるようにという着想がありました。「コミカルで、面白くて、気楽にプレイできるようにしたくて」とRubin氏は言います。「そのことは最初から念頭に置いていました」

スプリットスクリーンビュー。Lost In Playのスクリーンショット。青く輝く目をした4羽の小さな黒い鳥がパズルのピースをくわえ、大きな鳥の前に立っている。Totoはよじ登って鳥たちを捕まえようとしている。

Lost in Playは直線的な体験といえるかもしれません。明確なシナリオのないサンドボックスゲームではなく映画に近い感じがしますが、決してシンプル一辺倒ではありません。夢のような世界らしく、ストーリーにはまさに「遊び」があり、まるでその場で作り上げられているかのように感じられます。その理由は、アート、キャラクター、環境といった要素の制作を先に始めて、あとになって主人公の旅を追加したからだといいます。

「最初の段階で、何人かのキャラクターを登場させたいと考えていました。最後は自宅に帰ることも決まっていました。帰宅するまでの間に海の中や工房のシーンなどをいろいろと盛り込んでいったわけです」とMarkovich氏は言います。「そこで『ゴブリンの村は面白そうだけど、そこまでどうやってたどり着かせるか』が課題になりました」

TotoとGalの初期のコンセプトスケッチ。各キャラクターに4つのバリエーションが存在し、一番右が完成形。

チームにはもともとアニメーションに関する共通のバックグラウンドがあり、3年におよぶゲーム開発プロセスでそれが役立ってきました。それはアート面にとどまりません。多くのアニメと同じように、Lost in Playには会話がありません。アクセシビリティを高め、ストーリーに入り込みやすくするためです。登場人物はでたらめな言葉を話します。また、至るところにアニメならではの仕掛けが散りばめられています。たとえば、怖い場面でカメラが揺れるなどします。「アニメーションを学ぶには、脚本、撮影、演技など、さまざまなことを学ぶ必要があります」とMarkovich氏は言います。「だからゲームを作るのが好きなんです。ゲームにはすべてがあるんですよ」

親も子どもと一緒に楽しめるゲームだと言われたこともうれしかったですね。

Oren Rubin氏(Happy Juice Games共同設立者)

幼少期ならではの特徴が巧みに反映されており、ストーリーが転換してTotoとGalが現実世界に舞い戻り、兄妹げんかなどの日常的な行為が繰り広げられます。これは意図的なものです。Simon氏は、初期のバージョンは少しキュートすぎたかもしれないと言います。「初期の段階では、兄妹は自分たちのベッドで静かに眠っていました」とSimon氏は続けます。「でも、それは現実的ではないと思いました。争うような場面をもう少し増やして、ゲームの中盤で対立が生じるようにしました」。Markovich氏は、一時的に現実世界に戻ってくる場面でも空想の世界に片足を突っ込んでいる状態だとと言います。「公園を歩いていると、おばあさんがハトにえさをあげていたとしましょう。そこで左に向かってみると、沼地にゴブリンがいるかもしれません」とMarkovich氏は笑います。

Lost in Playのスクリーンショット。Totoが3匹のカエルと暗い森にいて、そのうちの1匹が石から剣を引き抜こうとしている。

パズルに目を向けると、Lost in Playのミニゲームは適切なレベルの難易度になるようデザインされています。チームは、このゲームのヒントシステムを特に誇らしく思っていますが、これ自体が問題になることもよくあります。「Lost in Playのプレイヤーには、昔のアドベンチャーゲームで私がしたような思いをさせたくありませんでした」とMarkovichは笑います。「ゲーム自体は好きなのに、行き詰って何か月も先に進めないのです。かといって、オンラインで答えを探してもらうのも好ましくないと考えました」。最終的に、ヒントシステムは答えに導くだけでなく、プレイヤーに達成感や、またやりたいと思わせるインセンティブを与えるものであるべきだという結論に至りました。

その結果、あらゆる年齢層のプレイヤーがユニークな体験をできるようなゲームが生まれました。「私たちが受けた最高のフィードバックは、あらゆるユーザーに適しているというものです」とRubin氏は言います。「親も子どもと一緒に楽しめるゲームだと言われたこともうれしかったですね」

Meet the 2024 Apple Design Award winners

「デザインの舞台裏」は、Apple Design Awardsの各受賞者がどのようにデザインを実践しているか、また制作の背景にある哲学を探っていくシリーズです。賞を獲得したアプリやゲームのデベロッパやデザイナーが、どのようにしてその素晴らしい作品に命を吹き込んだのか、ストーリーごとにその舞台裏を覗いていきます。