デザインの舞台裏:Rytmosのリズム
2024年9月3日
Rytmosは美しい映像と素晴らしいサウンドを同時に楽しめるゲームです。
インタラクション部門で2024 Apple Design Awardsを受賞したこの作品は、世界中の音楽とSF風の映像に巧妙なパズルを組み合わせた結果、素晴らしい挑戦と芸術的な成果を同時に成し遂げています。各レベルをクリアするには、障害物を避けたりボタンを作動させたりしながら、どんどん複雑になるボード上で直線のルートを引いていく必要があります。背景となっているのは世界中の音楽です。レベルによって、エチオピアのジャズ、ハワイのスラックキーギター、インドネシアのガムラン、その他さまざまなジャンルの音楽が幅広く展開されます。
ポイントは、レベルをクリアするたびに楽器が追加され、1つの曲が出来上がっていくという点です。
「そもそもの発想は、音楽に反応するのではなく、自分で曲を作り上げようというものでした」と語るのは、Rytmosを作成したデンマークの会社、Floppy Clubの共同創設者であるAsger Strandby氏です。「音楽がワイルドになり過ぎないよう、さまざまな工夫はしていますが、Rytmosの音楽はすべて、プレイヤーがどのようにパズルを解くかによって生み出されるのです」
ADAのファクトシート
Rytmos
- 受賞:インタラクション部門
- チーム名:Floppy Club
- 利用可能デバイス:iPhone、iPad
- チーム人数:5名
この芸術的なゲームは、数十年に及ぶパートナーシップの賜物です。Strandby氏と、Floppy Clubの共同創設者であるNiels Böttcher氏は二人とも、デベロッパであると同時に、デンマークのオーフス出身のミュージシャンでもあります。「音楽業界に携わる人ならたいてい皆知り合いです。小さなコミュニティですよ」と、Böttcher氏は笑って言います。
Rytmosの音楽のほとんどは、旅行の経験と好奇心から生まれています。
Niels Böttcher氏(Floppy Club創設者)
二人は2000年代初頭に知り合い、もともとゲームよりも音楽を通じて意気投合しました。「私にとってゲームは、とても自分では作れない魔法のようなものでした」とStrandby氏は言います。「私はオタクっぽい子供だったので、コンピュータで音楽を作り、最終的にはWebページも作りましたが、20代になるまで自分がゲームを作れるとは思っていませんでした」。ゲームの代わりに、Strandby氏はAnalogikなどのバンドを結成し、スイングミュージック、東欧のフォーク、ユーロビジョン向きのポップスなど、多種多様なジャンルのマニアックな音楽をヒップホップのビートに融合させてきました。表向きの業務をこなしたのはStrandby氏で、舞台裏の作業を担当したのがBöttcher氏でした。「名前以外のすべては私が管理していました」と彼は言います。
バンドは成功を収め、Analogikは5枚のスタジオアルバムをリリースしたほか、グラストンベリーやロスキレなど、ヨーロッパの大規模な音楽フェスティバルにも出演しました。しかし音楽業界での冒険が終わると、二人は再びそれぞれの技術職に戻っていきました。そして数年間その職にとどまった後、再び力を合わせることになります。「ある日、一緒にブレインストーミングをしていて、『音楽とゲームを何らかの方法で組み合わせられないか?』と考えたのです」と、Böttcher氏は回想します。「音楽とゲームには、構造やパターンという点で面白い共通点があります。それで、試しにやってみようということになったのです」
二人は自分たちの過去や旅行体験をベースにしたリズムゲームの制作に着手しました。「私は世界中の音楽のCDやテープを集めていたので、Rytmosで使用するジャンルはとても慎重に選びました」と、Böttcher氏は言います。「私たちはエチオピアのジャズが大好きなので、それも使うことにしました。またガムラン音楽(パーカッションを多用したインドネシアの伝統的なアンサンブル音楽)も、かなりワイルドですが非常に魅力的です。それに例えば、楽器の音を耳にして「あのタブラ(インドの太鼓)の音はすごくいいな」と思ったりもしました。ですからRytmosの音楽のほとんどは、旅行の経験と好奇心から生まれているのです」
ゲームは早い段階で形になりましたが、初期バージョンにおける迷路ははるかに複雑なものでした。それをより親しみやすいレベルに引き下げるため、Floppy ClubのチームはNiels Fyrst氏をアートディレクターに起用しました。「彼は物事をできるだけわかりやすくスッキリとさせることに全力を注いでいました」とBöttcher氏は語ります。「彼の提案を聞き、それでゲームがどう改善するかを見て、『よし、これでいけるかもしれない』と思ったのです」
Rytmosのプレイが成功するということは、単にレベルをクリアするということではありません。それによって、自分で何かを生み出すことになるのです。
Asger Strandby氏(Floppy Club創設者)
一連のパズルが以前より扱いやすいものになっても、デザインの複雑さという問題はまだ残っていました。Rytmosのレベル作りは、パズルの上にパズルを重ねるようなものでした。パズルを作り上げるだけでなく、それに合わせた音楽も作らなければならないのです。そのためStrandby氏と彼の兄弟であるBoは、レベルの概略を考案してそれをBöttcher氏に送り、Böttcher氏がそれを音楽と組み合わせる作業を行いましたが、そのプロセスは思った以上に難しいものでした。
「サウンドはパズルの中にある障害物の位置によって大きく変わります」と、Strandby氏は語ります。「それが、このゲームで生み出される音楽を形作るのです。ですからサウンドによってパズルのコンセプトが壊されないよう、何度もテストを繰り返しました」
このプロセスを正しく進めることには「かなりの苦労」があったといいます。「このような曲作りでは通常、まずループを作成し、そこに別のループを追加したりして、その上にレイヤーを重ねていきます」とBöttcher氏は話します。「Rytmosでは、エミッタを叩くとトーン、パーカッションサウンド、またはコードがトリガーされます。あるトーンが鳴ると別のトーンが発生し、また別のトーンが鳴る、という形で続いていきます。要するに、ゲームをしながらパターンを作っていくのです」
実際いくつかの曲は、あえて精密さを削ぐように作り直しました。人間的な響きを持たせたかったからです。
Niels Böttcher氏(Floppy Club創設者)
型破りなアプローチを採用することで、創造性を発揮する余地が生まれます。「二人の人が作った作品は違って聞こえるものです」と、Strandby氏は言います。「レベルをクリアすると、「ジャムモード」がアンロックされ、自由に演奏や練習ができるようになります。たくさんパズルを解いた後、ルールなしに好きなことができるようになるのです」とStrandby氏は笑います。
舞台裏では数多くの技術的なマジックが駆使されているものの、実際に出来上がる音楽には人間らしさが必要でした。「ここではアナログで有機的なジャンルを扱っているので、音楽をエレクトロニックなものにすることはできませんでした」と、Böttcher氏は言います。「実際いくつかの曲は、あえて精密さを削ぐように作り直しました。人間的な響きを持たせたかったからです」
何よりも素晴らしいのは、このゲームが創造性と巧みさに満ちており、それがゲーム外にまで及ぶということです。Rytmosのロゴに使われているアルファベットの文字は、それぞれがパズルの解き方を表しています。この会社のロゴは3.5インチのフロッピーディスクをモチーフにしており、それは彼らが当初ソフトウェアに夢中だったことにちなんでいます(「毎年、誕生日が来るとソフトウェア以外に欲しいものはありませんでした」とBöttcher氏は笑います)。そしてBöttcher氏もStrandby氏も、このゲームが未知の音楽と見知らぬ人々の両方を知るきっかけになることを願っています。「音楽について知ることは、その文化を学ぶための素晴らしい方法です」とStrandby氏は言います。
そして何よりも、Rytmosはインスピレーションに満ちた体験を与えることで、非常に高い目標を達成しています。「Rytmosのプレイが成功するということは、単にレベルをクリアすることではありません」とStrandby氏は語ります。「それによって、自分で何かを生み出すことになるのです」
Meet the 2024 Apple Design Award winners
「デザインの舞台裏」は、Apple Design Awardsの各受賞者がどのようにデザインを実践しているか、また制作の背景にある哲学を探っていくシリーズです。賞を獲得したアプリやゲームのデベロッパやデザイナーが、どのようにしてその素晴らしい作品に命を吹き込んだのか、ストーリーごとにその舞台裏を覗いていきます。