デザインの舞台裏:stitch.
2023年6月5日

ゲームの世界にはさまざまなジャンルやスタイルがありますが、刺繍に関連するゲームはほとんどありません。しかしstitch.の登場ですべてが変わります。これは、カジュアルなパズルと瞑想エクササイズ、午後のクラフトプロジェクトを掛け合わせたような、世代を超えた魅力的なゲームです。
「誰でもプレイできるゲームを制作していることが私たちの誇りです」と語るのは、stitch.を開発したLykke Studiosの創設者、Jakob Lykkegaard氏。「誰でもプレイできるようにするためには、制作に時間をかけることが大切です」。

stitch.では、刺繍をベースとしたパズルが出され、プレイヤーはパズルを完成させることで、愛らしいペンギンやベーコンへのラブレターなどの図案を仕上げます。プレイヤーは、まるでディスプレイの真下にあるかのように見える、驚くほどリアルで美しい質感の表面をスワイプします。stitch.は直線的に進むことはありません。「フープ」という形でチャレンジが出され、プレイヤーは自分のペースで探索していきます。またこのゲームは、多言語への対応に加え、色覚障がい、弱視、動きに敏感なユーザーのためにアクセシビリティのカスタムオプションを提供しています。
そのようなサポートはすでにLykke Studiosのペインティングパズル「tint.」で採用されています。このゲームは、色の代わりにパターンや質感を使って水彩画ベースのパズルを解くことができる色盲モードを実装しており、2022年のApple Design Awardsのインクルージョン部門にノミネートされました。

ゲームエンジンUnityで構築されたstitch.では、アクセシビリティをさらに追求しました。「Number Outlines(数字の輪郭)」を選択すれば、パズルの数字の輪郭がよりシャープになり、コントラストが強くなります。「Big Numbers(数字の拡大表記)」は、文字がより大きく読みやすくなります。「Reduce Motion(モーション制御)」は、突然の動きやアニメーションがすべて無効化されます。さらに左利き用モードでは、左利きのプレイヤーのために、邪魔になるUIを移動させます。「当初アイコンは、左利きの人にとっては手の下となってしまう位置に置かれていたのですが、ふと、『考えてもみなかったけれどもこれは問題だ。どうやって解決すればいいだろう?』と気が付いたのです」(Lykkegaard氏談)。
誰でもプレイできるゲームを制作していることが私たちの誇りです。
Jakob Lykkegaard (Lykke Studiosの創設者)
Lykkegaard氏によると、チームはstitch.のアイデアを作り上げる工程で、変わったアプローチを取ったそうです。「ゲームを構築する手順がちょっと逆なんです。私たちは大抵、最初に素材に惚れ込んで、そこからその素材を中心にゲームの仕組みを構築する、という流れ制作します。そしてデバイスでの使用感を確認し、ダメならプロジェクトを中止して別の素材に移行します」とLykkegaard氏は説明します。stitch.の素材は、とあるソーシャルメディアでの偶然の出会いから生まれました。「刺繍の投稿を見て、素直に『うわ、すごく素敵』と感銘を受けたんです」。

その構造についてインスピレーションの源となったのは、思いもよらぬアナログなソースでした。日本の新聞に掲載されていた幾何学的なグリッドベースの四角パズルゲームです。「グリッドというアイデアは採用しましたが、グリッドは歪ませ、見た目は良いけれども統一感のないものにしました」とLykkegaard氏は説明します。「そこから、プレイヤーがどのようにグリッドを埋めていくのかについては、たくさんの選択肢がありました」。
tint.のように、プレイヤーが途方にくれたり弱気になったりしない程度の難しさのバランスを追求しました。「『ああ、私には難しすぎる』と思われてしまうような、数独のようなゲームは作りたくなかったんです。その一方で、とにかく永遠にクリックするだけのゲームも、作りたくはありませんでした。子どもにとって難しすぎず、かといって子どもっぽすぎないstitch.が目標でした」。
そしてその目標は達成されました。Lykkegaard氏のところに、親しみやすくプレイしやすいこのゲームのスタイルに惹かれたという意見を送ったのは、8歳から80歳までの幅広い年齢にわたる、さまざまなプレイヤーでした。「大切なのは、どうすればプレイヤーに楽しんでもらい、自分を賢く感じてもらい、ゲームをしながらリラックスしたいと思ってもらえるか、ということです。その感覚さえ生み出すことができれば、プレイヤーは戻ってきます。そして誰もに、このゲームは自分に合っている、と感じてもらえるようになればと願っています」。
デザインの舞台裏は、Apple Design Awardsの各受賞者がどのようにデザインを実践しているか、またその哲学を探っていくシリーズです。各ストーリーごとに、賞を獲得したアプリやゲームのデベロッパやデザイナーが、どのようにしてその素晴らしい作品に命を吹き込んだのか、その舞台裏を覗いていきます。