開発者インタビュー:Andre Haddad

30年前、TuroのCEO、Andre Haddadは、家族と住むベイルートのアパートの地下にあるガレージで、爆撃に耳を傾けていました。

それは1989年、15年に及んだレバノン内戦の最後の年でした。8階建てのHaddadのアパートに暮らす20世帯以上の家族は、比較的安全な地下ガレージに身を寄せ合い、夜を過ごしていました。6台の車を駐めるのがやっとの広さでしたが、シェルターとして使われ、上のアパートから持ってきたマットレスや電灯、身の回りの物などが散乱していました。

「戦時にはそれなりの知恵がつくものです。ビルの上層階にいたいと思う人はいません」とHaddadは語ります。「夜間の銃撃戦が多い時には、ガレージで寝ていました。砲撃と建物が震動する音を聞きながらね」

彼の家族は、ある夜アパートが爆撃を受けるまで、1年以上もこのような生活を続けました。

Haddadは、サンフランシスコの中心街にある自身のオフィスでその半生を振り返ります。彼が提供するのはカーシェアリングApp「Turo」。ユーザーが個人所有の車(多くは高級車)を1日単位で貸し出せるようにするAppです。ランボルギーニを運転してみたい、BMWコンバーチブルでベガスからベイエリアまでドライブしたい。そんな思いをすべて叶えるAppです。今や「Turo」の会員数は1,400万人を超え、45万台の車両が登録されています。ここに辿り着くまでにHaddadは多くの国境を越えてきました。しかし、すべてはあの夜、あのガレージで始まったのです。

「Turo」ならスパイ映画のような車をレンタルできます。

「Turo」ならスパイ映画のような車をレンタルできます。

爆撃を受けた後、事態は急速に動き出しました。Haddadの家族はレバノンを離れ、キプロスの親戚のところに身を寄せることにしましたが、Haddadは別の道を選びました。爆撃の前にパリにいる従兄弟と話をした際、考えたこともないような質問をされていたのです。「『もう高3だね。これからどうするの?君は何をしたいの?』と聞かれました。うわぁ、そんなこと誰にも聞かれたことなかったぞ、と思いました。あのような状況では将来のことなどほとんど考えられません。それも一種の自己防衛機能なんでしょうね」とHaddadは語ります。

爆弾が自宅のバルコニーを直撃した翌日、Haddadはその従兄弟に電話をし、その後まもなくパリ行きのチケットを手に入れ、ビジネススクールに入学する計画を立てました。17歳にして独立したHaddadは、フランスのミュージックシーンに進出するという別の道も見出し、DJになりました。ヘルメットを被るようになる前のDaft Punkも見たことがあるそうです。しかし問題がありました。彼の音楽はすべて爆撃で失われていたのです。

パリでDJとして活躍していたHaddadの充実したミュージックコレクション。

パリでDJとして活躍していたHaddadの充実したミュージックコレクション。

「コレクションを再建する方法を探していて、eBayに出会いました」と彼は言います。

そのセレクションは驚くべきものでしたが、買えば買うほど、売りたいという気持ちも強くなり、みるみるうちに送料もかさんでいきました。ビジネスの才能を急速に伸ばしつつあった彼は、この2つの問題に対処するため、その直感力を駆使して、音楽を交換できるサービス「iBazar」を立ち上げ、ヨーロッパ最大級のオンラインマーケットプレイスの一つに育て上げました。iBazarは大きく成長し、eBayに1億ドル以上で買い取られるまでになりました。こうして、すべてが変わりました。

Haddadは次の10年間、ITエンジニア職に従事し、eBayに在職。Shopping.comのCEOを務めました。2011年、激務に追い詰められた彼は、友人の持ちかけた「Turo」というカーシェアリングのアイデアを契機に、長期休暇を取ることにしました。「創造性、闘志、貪欲さは本当に大切だと思っています」とHaddadは言います。現実世界の人々をつなぐためにインターネットを使うという発想も彼にはお馴染みのものでした。「『Turo』は信頼の上に築かれています。そこに大きな心地よさを感じたのです」

「人間の力を見ることができる。それが何よりの醍醐味です」

Andre Haddad

現在「Turo」の会員数は1,400万人を超えています。彼によれば「ユーザーの年齢層は18歳から80代にまで及びます」。Appには標準的なセダンから珍しいハイエンドの輸入車まであらゆる車種がそろっており、従来のレンタルより安価なものも多くあります。

さらにHaddadは、最初は躊躇していた移民問題についても積極的に語るようになりました。「初めは、こうした活動に参加する気にはなれませんでした。個人の売名、もっと悪くすると企業の売名行為と取られかねないからです」。その抵抗を乗り越えるのは簡単ではなかったと言います。

今、彼は書くにも語るにも、ますます率直になっています。Haddadは長年にわたりLGBTQ+移民の権利平等を求める組織、Immigration Equalityの役員を務め、移民の保護を目的とした意見書や公開状にも署名しています。彼は次のように語ります。「これは正しい行いだと思います。米国の経済発展にも役立つでしょう。そして何より、彼らがここにいるのは、自らここに来ることを選択したということ。それは非常に難しいことです。そうしようと思ったということは、何か特別な気質があるということなのです」

App Storeより転載