デザインの裏: 「Song of Bloom」
2020年8月21日
「これは抽象的なゲームで、時間をかけると、だんだん意味がわかってきます。ストーリーに入り込めば入り込むほど、より多くの発見があり、インタラクションも変化していきます」と、Stollenmayerは説明します。
このコンセプトは、彼のゲームデザイン哲学の中核をなすものです。まず、すぐに把握できる一つのアイデアを生み出し、それから考え続け、さらに突き詰め、プレイヤーをより遠くへといざなうのです。物語とパズルを探究すること以上に、真の「ゴール」はありません。Stollenmayerの言葉を借りるなら、このゲームは「最も純粋な形のユーザーエクスペリエンス」なのです。
「Song of Bloom」は、Stollenmayerが休暇中に行ったある実験から生まれました。イタリアに滞在中、浜辺に打ち寄せる波のループ映像を撮影した彼は、デバイスの向きを変えることで、新たな側面を加えてみようと考えました。動画の向きが変わると水がフレームからはみ出るようにする、というものです。「それが、新しいアイデアと新しい実験の引き金となる一つのプロセスになったのです」と彼は言います。
Stollenmayerのほかのゲームとは異なり、「Song of Bloom」には変わらないものがありません。「要素も、インタラクションも。特にスタイルはどんどん変わります」。あるパズルはラフスケッチのように見え、別のパズルでは、ポップコーンのトウモロコシの粒がハイパーリアリズムで表現されています。シリーズの中で彼の一番お気に入りのパズルは、リソグラフ風に描かれたストップモーションの牛乳パックです。
いま見ているものは現実なのか、と心の奥に常に疑いを抱いています。このことは、私が伝えようとしているムードに大きな影響を与えています
「Song of Bloom」のすべての画像はコンピュータで生成されたものであり、コードを用いた実験の結果ですが、なかには意図せず生まれたものもあります。「最高のプログラマーではないデザイナーなので、私が書いたコードはよく視覚的なエラーを引き起こします。制作中は、自分の失敗からインスピレーションを得るようにしています」と、Stollenmayerは言います。
その一つが、アイテムを巧みに処理し、現実世界にありそうな見た目にする、というアイデアです。たとえば、プレイヤーがバーチャルで編み物をしてアイテムを作るパズルでは、初心者が作った編み物のように、ところどころに小さな穴やほつれなどが見られます。Stollenmayerは次のように語ります。「そういう失敗の部分がないデジタルバージョンを作るほうが、はるかに簡単です。ですが、失敗を模倣することで『もしかして、これはリアル?』と自問する瞬間を生み出すことができるのです」
彼のインスピレーションの源となったのは、没入型のインスタレーションやパズルゲーム、たとえばマルチメディアアーティストのLaure ProuvostやFranz Westの作品、あるいは「Blackbox」「Device6」「Prune」のようなゲームです。「色彩や構図の感覚を学ぶためにたくさんのアートを鑑賞します。また、周りの環境をどのようにコントロールし、変容させるかについても学びます」と彼は言います。
私が興味を持っているのは、何かと何かの間。そこで、あらゆるものがつながります。なぜなら、私たちの世界に、コンテキストなしに存在するものはないのですから
Philipp Stollenmayer
視覚、触覚、動き、言葉によるゲーム内のヒントは、プレイヤーにその空間を探索させたり、画像に触れさせたりするようデザインされています。パズルの多くの部分が非常に抽象的であるため、Stollenmayerはプレイヤーを導く手法として、ハプティクス(触覚)を使っています。つまり、触覚を用いることで、難しい大事なシーンや簡単なシーンのムードを表現したり、謎を解く鍵となるかどうかを判断するヒントを与えたりしています。「現実世界と同じで、プレイヤーはすべてのアクションで、何らかの反応を期待しています」と、Stollenmayerは言います。
「Song of Bloom」で、次のパズルに移行する画面のコンセプトとして最も早い時期に考案したのが、まばたきの表現でした。パズルが解けたときやメイン画面に切り替えるとき、まばたきのように画面全体が明滅します。
画面の切り替えについて、Stollenmayerはピンチのチェスチャーなど、いくつかのMulti-Touchジェスチャーの実験を行い、最終的に、コーナーにボタン(1本の曲線)を置くことにしました。「プレイヤーに、その存在を頭に入れておいてもらう必要がありました」と彼は言います。つまりそれは、簡単に見つけられて理解できるものを作り、パズルのプレイ中に偶然やってしまう可能性のあるジェスチャーは追加しないこと、を意味していました。
その細い曲線は、次々に移り変わる「Song of Bloom」のアーティスティックな画面の中で唯一、一貫して変わらないインターフェイス要素です。「全画面タイプのiPhoneのホームバーと同様、その線は、展開中のシーンを妨げるようなコンテンツも目立つスタイルも持たず、ただそこにあることを思い出してもらうためだけに存在しています」とStollenmayerは言います。
線をタップすると、プレイヤーはゲームのメイン画面に戻り、それまで育ててきた、枝分かれしたパズルのツリーを表示させることができます。このツリーは、ゲーム内で唯一、ヒントを与える仕組みとしての役割も持っており、長押しすると、ゲーム内で焦点を当てるべきエリアを覗き見ることができます。ゲームを進めていくほど、物語(とツリー)が育まれ、より多くのヒントを発見できるようになっていきます。オリジナルの音楽、そして様々な力が豊かに組み合わさっていくところが、このゲームの名前の由来です。
多種多様なアートスタイルとクリエイティブな影響を受けながらも、「Song of Bloom」ではそのすべてが驚くほど見事に融合しています。ストーリーはもちろん重要ですが、Stollenmayerにとって、デザインで重要なのは「どう感じられるか」です。個人的な発見のゲーム、アートとヒントが織りなす刺激的な物語などなど、「Song of Bloom」をどう呼ぶかはあなた次第ですが、Philipp Stollenmayerが目指すゴールはシンプルに、プレイすることそのもの。つまり、同じ1時間のセッションの中で、ゲームに心を奪われると同時に、心を解放する感覚を味わってもらうことなのです。
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