デザインの裏: 「Looom」

イスラエルのテルアビブを拠点とするEran Hilleli。

アニメーションをループさせるには、開始地点と終了地点が同じになる一連のフレームを作成します。また、複数のループを「織り交ぜる」ことで、より複雑なループを作成することもできます。つまり、既存のループの上に別のループを重ねて複雑な構成を作ることができるのです。ループを織り交ぜることで美しいアニメーションを生み出すことができるのですが、プロセスの全体を通してフレームの複製や準備作業が必要になるため、技術的な難易度が高くなります。「このテクニックを学生に教えている時に、気がついたのです。このプロセスによって思考がどのように分断され、行動がどう変わってしまうのか、と。そして、もしこのプロセスをスムーズにすることができたらどうなるだろうか?と考えるようになりました」とHilleliは言います。

この疑問は、あるプロジェクトでFinn Ericsonと出会うまで、Hilleliの頭の中に残り続けていました。スウェーデンのストックホルムに拠点を置くEricsonは、音楽、数学、プログラミングの経歴を持っています。「我々はお互いを知り、『Looom』を筆頭にちょっとした冒険をたくさん計画し始めました」とHilleliは言います。そのすぐあと、彼らはこのAppに取り掛かるためにiorama studiosを設立しました。

何よりもまず、アニメーションの創造的エネルギーをいかにプロセス自体に近付けるかについて模索しました。彼らが目指したのは、ループを織り交ぜることができるツールです。クリエイティブな力が途切れることなく、短時間で高度なアニメーションが制作できるようなAppです。「流れありき、体験ありき。それが『Looom』の設計思想のコアです」とHilleliは言います。

その流れの中心は、適切なハードウェアにたどり着くことでした。アニメーション描画用の既存のデジタルツールは、複数の周辺機器を備えた大がかりなデスクトップ環境が必要でした。しかし「Looom」には別の方法が必要であるとHilleliは考えていました。「アニメーション用の小さなシンセサイザーのようなものをいつも想像していました」とHilleliは話し、次のように続けます。「趣味で使うこともできますが、本格的な制作も可能なものです。おもちゃレベルというわけではないのです」

彼らは必要としていた携帯性と柔軟性をiPadに見出し、タッチ操作とApple Pencilの両方を組み込んで、Appの独自のインターフェイスとインタラクションを設計しました。HilleliとEricsonは早い段階で、フレーム選択の固定的な位置制御は「Looom」に適さないと気付いていました。うまく設計できたとしても、特定のフレームに切り替えるにはユーザーが作業を停止する必要があるのです。

ユーザーはApple Pencilやタッチ、その他のコントローラを使用して「Looom」を操作できます。

固定的な位置制御を行う代わりに、Apple Pencilでの描画体験にユーザーを没入させるようにしました。タイミングは空いている方の手のタッチジェスチャーで調整できます。両手の動きを組み合わせて使うことから、「サクソフォンの演奏方法によく似ていると感じました」と語っています。

Hilleliはよく、「Looom」は工具というよりも楽器に近いと話しています。つまり、このAppは単にアニメーション作業を行う場所ではなく、体験や行程の一部になっているということです。「おもちゃのようだと言う人もいるかもしれませんが、そうではないんです。これは、遊び心と、遊び心に内在している創造力との関係性なのです」と彼は話します。

その遊び心と創造力によって、子供、大人、カジュアルなアニメーション愛好家、プロのアニメーターなど、誰もが「Looom」にアクセスできるようになっています。初心者アニメーターやカジュアルなユーザーでも、「Looom」を入手して数分間でアニメーションを作成することができます。子供は自分だけでAppを自由に試してみることができます。「Looom」は制作ツールに置き換わるものではありませんが、このAppを使用して、経験豊富なデザイナーやアニメーターが新しいアイデアを試し、創造力をふんだんに発揮させることが可能です。

またAppのインターフェイスには手描き風のアイコンや要素が配され、意図的に親しみやすくなっています。インターフェイスは画面の端に配置されているので、「Looom」の大部分の領域をアニメーションキャンバスとして使えるようになっています。また、大がかりなメニューや複雑なコントロールを表示せずに、必要なコントロールだけを使うことができます。全体として、ユーザーのアニメーションを邪魔せずに、一貫した視覚スタイルを作り上げています。キャンバスとアニメーション自体に集中できるよう、Appにアクセントカラーを使っていない理由の一つがここにあるとHilleliは言います。

初心者でも経験豊富なアニメーターでも「Looom」で素晴らしい体験を味わえます。

「創作ツールを使う場合、ツールが創作プロセスの流れを邪魔しないことが非常に重要です」とHilleliは言います。「Looom」なら、クリエイターはアニメーションや色遣いに集中して、創作に没頭できます。「ボタンやコントロールはどこにあるのだろう?」「ツールを邪魔にならない場所に移動させた方がいいだろうか?」などとと悩む必要はありません。

アニメーションには非常に多くの複雑な概念があって、HilleliとEricsonはそれをAppに組み込むことも可能でした。しかし、最優先事項はAppのユーザビリティです。「機能の追加に尻込みしているわけではありませんが、すべてを実行できるわけではないので、ツールの流れを阻害したくありません」とHilleliは言います。

Appのインターフェイスと同様に、「Looom」のロゴも、最終案に決まる前に何度も変更が繰り返されました。この場合、インスピレーションはスウェーデンの文化という、予想外の方向から来ました。

「ムーミン一家」は、スウェーデンの作家トーベ・ヤンソンによる、人気童話シリーズに登場する家族です。Hilleliはムーミンのアニメ版を見ていた時、青空の中で雲がこちら側に迫ってくる美しいシーンに心を打たれました。彼は単純な形のシンプルさと美しさに魅了され、雲の形をいじって形を作り、最終的にそれが「Looom」ロゴになりました。「時には、奇妙な偶然に賭けてみると道が開けるものですね」とHilleliは語ります。

「Looom」の最終的なアイコンは、雲の形のシンプルさと美しさに触発されました。

「Looom」は、HilleliとEricsonが一緒に開発した最初のAppであり、Apple Design Awardを受賞することは両氏にとっても予想外だったようです。「驚きでした」とHilleliは言います。「たくさんの情熱を注いできました。私たちはApp開発の経験がありませんでしたが、どうしてもこのAppを作りたかったのです。すぐにAppleから賞を受けられるなんて本当にびっくりしました」

次の大きなことに取り組んでいる他のAppデベロッパへのHilleliからのアドバイスは、「すべてを事前に計画しないこと」です。「小さな苗木の成長を見守ることが大切だと思います。想像すらしなかった場所や決定にたどり着くことがあるのです」と彼は言います。


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