開発者インタビュー:Shelley Taylor

世界中の移民・難民を支援する「RefAid」

2015年、3歳のシリア人男児Aylan Kurdiは、家族と共にヨーロッパに渡る途中、海に投げ出され、地中海で命を落としました。レバノンの浜辺に打ち上げられた子どもの写真に、米国出身のスタートアップのベテランShelley Taylorはショックを受け、心を痛めました。

「移民たちはヨーロッパにやってきますが、たどり着いた先で、スーパーマーケット、シェルター、医師など、最低限必要なものをどうやって見つければいいのかを彼らは知りません」。市や非営利団体向けソフトウェアを製作する会社TrellyzのCEOであるTaylorは語ります。「そこで思ったのです。みんなスマートフォンは持っている。それならきっと、彼らが必要なものを必要な時に見つけられるよう支援するものを作れるのではないかと」

彼女は週末を使って「RefAid - Refugee Aid App」を構築し、2016年2月、英国とイタリアでリリースしました。このAppは、新生活を築こうとヨーロッパにやってくる、そして米国でも増えつつある移民や難民のための支援団体のサービスに関する情報を提供しています。

このAppでは、言葉のほかにアイコンを用いることで言語の壁を低くしています。

当初このAppは、難民たちが生きていくための最低限のニーズを満たすことを目的として設計されたものでしたが、今では、米国国境で高まる移民危機の問題に取り組み、COVID-19に関する情報を提供するAppへと進化しています。

離散した家族を支援するサービスが追加され、法的支援に関する情報を頻繁に更新しているほか、位置情報をもとに、その地域に特化した重要な情報を届けるプッシュ通知も行っています。例えば、移民が集まる地域で、法律支援サービスが無償で提供される場合、「RefAid」がアラートを送信し、その電話番号などの情報を提供します。

このAppは25か国で使用され、約5,000の支援団体が参与しており、まもなく米国のほとんどの州が網羅されます。Taylorとそのチームは、非営利団体や公共サービス機関への働きかけを続け、「RefAid」への参与を促しています。ウェブベースのコンテンツ管理システムを通じて、サービス内容を管理・更新し、利用者と直接コミュニケーションを取っています。

移民たちはヨーロッパにやってきますが、たどり着いた先で、スーパーマーケット、シェルター、医師など、最低限必要なものをどうやって見つければいいのかを彼らは知りません

このAppは、英語、アラビア語、ペルシャ語、スペイン語に対応し、まもなくフランス語も加わります。(位置情報システムを利用して)半径100マイル以内の難民に支援情報を提供しており、そのサービスは、法律、食事、教育、仕事、メディア、宗教、メンタルなどのカテゴリーに分類されています。

問題解決へ一歩ずつ

Taylorは、カリフォルニア州パロアルト出身で、現在はヨーロッパで暮らしています。「RefAid」の立ち上げにあたり、彼女は支援団体に連絡し、助けを必要としている移民をサポートする支援サービスの一覧を提供してもらえるよう依頼しました。まず国連難民高等弁務官事務所と英国赤十字社に連絡しましたが、すぐ壁に突き当たりました。これらの機関の大半は自身の提供するサービスの全貌を把握していなかったのです。

世界規模の難民危機に心を痛めたShelley Taylorは支援のためのAppを製作しました。

Taylorは何週間も返答を待ちました。「こちらから電話をかけ『お願いした件はどうなりましたか?支援サービスは提供されているんですよね?その一覧をいただきたいだけなんですが』と言うと、みんな一様に『ええっと、そういったものはないので、各事務所に確認しなければなりません』と言うのです」

こうしてTaylorは、おそらく世界初となる非営利サービスの国際データベースを構築しました。支援団体に対しAppの利用料は一切請求せず、開発費と運用コストはTaylor自身が負担しています。「『RefAid』への情報掲載を断る理由を与えたくなかったのです。これは重大な問題であり、切実に支援を必要としている人々がいますからね」

支援へつなぐ支援

「RefAid」は難民や移民からのリアルタイム更新に対応することはできませんが、Taylorは陸路や海路でやってくる人々のニーズを先取りしています。

「例えば、難民がギリシャにたどり着いた場合、支援団体は直接浜辺へ行く権利は認められていません。職員は事務所で待機しなければならない。それが法的な定めです。ですが、難民にAppの存在を伝えることができれば、難民は自分で、近くにある赤十字の事務所を見つけ、食糧配給を受けられます。でなければ、自分で見つけるのは難しいでしょう」

フランスの街、カレーを訪れたTaylor。カレーは、2015年から2016年にかけて約1万人の難民が身を寄せ「ジャングル」と呼ばれた難民キャンプで知られる街です。

このAppは主に米国、英国、ベルギー、フランス、イタリア、ギリシャで使われています。2017年1月、最初の米国への入国禁止令が発令された後、「RefAid」は米国の19の都市で速やかに展開し、難民が足留めされている空港付近に存在する法的サービスの一覧を掲載しました。2018年5月には、オスロ、アテネ、アムステルダムを含む40都市においてサービス一覧の提供を開始しました。

米国で移民危機が続く現在、様々な支援団体が提供する新サービスが日々追加されています。国際救済委員会のような米国の大規模な再定住支援団体の一部は、移民に対し、「RefAid」をプリインストールした携帯電話の配布を開始しています。

Taylorは次のように語ります。「Appの成長を見るのは喜ばしいことです。でも、まだ全世界を網羅できていません。世界中の難民をはじめ、様々な人に用意されたあらゆるサービスを網羅すること、それが目標です。一歩一歩、進むのみです」

App Storeより転載